■キューバの童話■

los cuentos infantiles cubanos

『水色馬車の運転手さん』(ドーラ・アロンソ)

Dora Alonzo "El Cochero Azul"

 あの美しいカリブの国キューバの童話『水色馬車の運転手さん』を紹介します。この本をはじめて知ったのは、もう四十年もむかしのこと、十分な力もないまま、辞書を片手に一カ月ぐらいかかったでしょうか、訳していたのですが、そのままずっと押入の中で眠っていました。
 作者のドーラ・アロンソさんが生まれたのは、首都ハバナから東の方に約二百五十キロ離れたバラデロのマクシモゴメスという小さな漁村でした。バラデロは、いまでこそ設備の整ったリゾート・ゾーンとなり、きれいな浜辺は観光客でにぎわっていますが、カストロ革命前までは、ほとんどの土地がアメリカのデュポン財閥の保養地として囲われ、周りのキューバ人は貧しい暮らしをしていました。
 アロンソさんの家庭もそうで、小さなころから家の仕事を手伝い、海に漁に出たりもしたようで、その合間に、近くの丘や林で小鳥や小さな昆虫を相手に遊んだそうです。そんな少女時代の体験が、この作品や『ギジェの冒険』など、彼女の作品の根底に流れています。
 その後、アロンソさんは、勉強のためにハバナに出ますが、この学生時代に、のちの革命グループのアイデ・サンタマリアと親しくなり、シエラ・マエストラでの、農民の識字活動に加わるようになりました。
 革命後は、識字教育、児童教育を指導する一方で、童話や絵本の創作活動に入り、一九六一年には、革命前の貧しい農民の姿を描いた『無防備の大地』(Tierra Inerme)でカサ・デ・ラス・アメリカス賞を受賞。晩年は、キューバ作家芸術家同盟のメンバーとして活躍されていました。
 この物語には、馬のアスレホ(キリビーンと鳴きます)をはじめ、いたずら好きの子犬、カウボーイの格好をしたニワトリのピピシガージョ、奥さんガエルのカシルダなど擬人化されたいろんな動物が登場して、ゆかいに話が進んでいきます。また、ドミノ・パイでできた家や、四角い翼の大鳥や、サイコロのような四角な卵、ポストの形をした郵便局など、楽しく奇抜なアイデアがいっぱいで、日本でもよく知られている童話の主人公も顔をのぞかせます。
 一九七五年に出版され、わずか三カ月で二十万人の子どもたちに読まれました。キューバの教育の仕組みは、日本と少しちがっていて、小学校が六年、中学校が四年、高校が三年の六四三制ですが、その中で小学生は六歳から十一歳まで合わせて約二百万人といいますから、十人に一人の割合で読まれたことになります。
 ただ、この比率の高さは、社会主義キューバだからこそ、といえないこともありません。そのように、この物語も最後のところで、勢い、ファンタジー世界から現実世界に引き戻されてしまうのを惜しまれる読者も少なくないでしょう。この結びに、さて、どんな意図と背景があったのか、さぐる資格はわたしにはありませんが、一つの社会の志向を映すのが文学なら、その社会の桎梏から逃れられないのもまた文学。当時のキューバ社会の現実を物語るメモリアルとして、興味深い一節になっているのではないかと思っています。

 と、一度は、ここに発表したのですが、はたと気づきました。いかに営利目的ではないにしても、著作権の問題があります。たしかに、アロンソさん本人からは翻訳、紹介のことは承諾を得ていますが、もう四十年近くも昔のことで、アロンソさんも二〇〇一年に亡くなられていて、現在、その著作権がどこにあるのかもわかりません。キューバのことですからたぶん作家同盟にあると思いますが、きちんと調べてみないといけません。また、挿絵の著作権も同じようにあります。助言をいただくために、CRIC(著作権情報センター)の方にも問い合わせてみましたが詳しくわかりません。というわけで、紹介のための試訳版として一時的な掲載とします。
 いうまでもありません。童話に限らず、キューバの文学にはいいものがたくさんあります。この頁が、そんなキューバの童話、文学が日本の子どもたちに紹介される、一つのきっかけになればうれしい限りです。
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