■母棄■

hahasute

母棄ははすて

「十五の春、ぼくは母を棄てた」の帯書き通り、ぼくの青春は母を棄てることではじまりました。そして、いきつくところ、母を殺しています。以来、居もしない母をさがす旅になり、とっくに母の齢を越えたというのにいまもそれが続いて、そんな自分をふり返ったのが『母棄』(ポプラ社、2007年)でした。五十を過ぎて仕事が途絶え、ぼんやりしていたら、気の抜けたサイダーから、突然、ぷくっと一つ、泡ぶくが湧き上がるように昔が蘇ってきました。母を棄て、故郷も捨てたはずなのに、ぼくの血の中の「地縁」が抜けなくて、保育園からの仲良しのこと、守りをしてくれた女工さんのこと、村の鍛冶屋の親爺のこと、そして思い出したくもなかった小僧暮らしを綴りながら、母を想う気持ちはもちろん、その陰に父への鎮魂の思いを込めたつもりなのですが……、どう読んでいただけるか。いま、ぼくも父の齢に近くなって、「父」とは何なのか、不思議な気分になっています。

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