■送り火■

cuento de fantasía "okuribi"

 そういえば、あの年の送り火はいつもとちがっていた。明かりの消えた街をぐるっと囲むのはむかしのままだったが、灯火の火床は右が六つに、あとは一つ二つだけ。なんとなく頼りなく寂しい気もしたが、御魂送りも、もともとはそんなけしきで、それを大とか舟とか鳥居とか、いろいろ考えたのは仏理ではさらになく、京都人の遊び心でなかったか、と一人、妙に納得したものだった。
 十年ほど前だったか、京都にいたときは気にもかけなかったのを急にじっくり見たくなり、一日、町内仲間に入れてくれるよう京都の友だちに頼んでみた。さすがにそれは無理難題だったが、舟山のすぐ山裾からごく身近に見送ることもできたし、あとの念仏踊りの輪にも入れてくれた。漆黒の闇に、ぱち、ぱち、はじける篝火を囲み、きん、きん、かん、こん、鉦と太鼓に合わせて奇態に踊る……、なぜか御霊といっしょにいるようで、それは不思議な一夜でした。

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